2021年08月28日 [Default]
ひとりの若者が、師を見いだすための旅に出た。
行く先々でいろいろな人や場所を訪れてみたが、「これこそ私の師だ!」という人には出会わなかった。
あるとき、彼は歩き疲れて、草原の大きな木の下で休んだ。そこには、すでにひとりの老人が坐っていた。
若者はとわずがたりに、自分の旅について、その目的について、老人に話した。
老人は若者の話をだまって聞いたあと、言った。
「おまえの師は、この道をどこまでも西に進んでいったところで見つかるだろう」
老人は、若者の師がどんな姿かたちをしていて、どんなところで、どんなふうに坐っているかを詳細に語ってきかせた。
若者は老人に礼を言い、よろこび勇んで旅をつづけた。
太陽が沈む方向にむかって、ときには歩き、ときには舟に乗った。
旅先で得た情報をたよりに、さまざまな師やサドウーを訪ねてみたが、老人が言いあらわしたような人には出会わなかった。
彼はそのたびに西にむかって進みつづけた。
そうして、20年が過ぎた。
若者はもはや壮年になっていた。だが、師はまだ見つからなかった。彼は旅に疲れ果てていた。
あるとき、彼は夕日が沈む方向に、大きな樹があるのを見つけた。そして、その下には人が坐っているようだった。
近づくにつれて、そこに坐っている人は、20年前に老人が語り描いた師の姿そのものだった。
師は、オレンジ色の衣(ロ−ブ)をまとい、長い白髪を肩までたなびかせている。
そのとおりだ。
師は、大きな木の下で、夕日にむかって蓮華座に坐っている。
まったく、そのとおりだった。
「見つけた!」
彼ははち切れんばかりのよろこびとともに、師のもとに駆けよった。
そして、師の顔を見て、驚いた。
それは、20年前に出会った老人その人だった。
老人は自分の姿を描写して聞かせ、若者はそれを見つけるために、地球をちょうど一周してしまったというわけだ。
「あなたでしたか――!」
と彼は叫んだ。
すると、師はにこりと笑って、「ようやく着いたか」と言った。
「それなら、どうしてあのときそう言ってくれなかったのですか? そうすれば、みすみす20年という時間を無駄にせずにすんだものを・・・」
彼がうらめしそうに言うと、師は毅然とした口調で言った。
「あのときも今も、私は同じだ。しかし、あのときのおまえには理解できなかった。それがわかるためには、20年という年月の探求が必要だったのだ」
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