中国哲学と高貴薬
命とは
命とは何かというのは、洋の東西を問わず、哲学的にも科学的にも難しい問題ですが、「命」という字から考えると、この文字は「令」と「口」から構成されています。「令」とは、号令や指令という使い方を見ても分かる通り、大勢に対して指図するという意味で、その「令」に「口」をつけたものが「命」です。 |
では、この「口」は誰の口かというと、中国哲学的には、周易・説卦伝に「神なるものは万物に妙にして言うを為すものなり」とあり、造物者とも神とも呼ばれる存在という事になります。つまり宿命や運命などのように、命とは、あらかじめ天(神)によって定められたものという意味を含みます。 |
また、黄帝内経(霊枢)には、「何を神と為すか」という皇帝の問いかけに対して、岐白が「血気己に和し、営衛己に通じ、五臓己に成る。神氣心に舎(やど)し、魂魄畢(ことご)く具わりて乃ち人と成るなり」とこたえていますが、肉体が形成されたところに、五臓の心に神が舍ることで「人と成る」とあります。 |
さらに「百歳、五臓皆虚し、神氣皆去り、形骸独り居して終わるなり」ともあり、人の命とは、この世において、その始まりから終わりまで、神とつながっているとされています。 |
因みに、慶応大学でロボットに心をもたせる研究をされている前野隆司教授は、脳科学や心理学の論文を読み進むうちに、私たちの行動や考え方を支配しているのは無意識や潜在意識であり、自分=顕在意識が自ら行ったと思っていても、実際は無意識からの指令によって行っており、意識はその行動を受動的にエピソード記憶しているだけだという受動意識仮設という考え方を提唱されていますが、中国哲学的には、自分に指令を出している存在の事を神とよんでいるともいえます。
開竅(かいきょう)薬と神
さて、牛黄(ごおう)や麝香(ジャコウ)、あるいは蟾酥(センソ)などには開竅作用があるとされています。開竅とは、竅(あな)を開く、と書きますが、一般的には心竅が熱邪や痰濁などの病邪や蠱毒(こどく)の病とよばれる呪いによって閉じ込められ、意識障害(竅閉神昏)をおこして生命が危うくなったときに速やかに心竅を開いて開竅醒神させる作用を言います。 |
つまり、心竅を通じた神とのつながりが絶たれそうなときに、塞がれた心竅を開いて神とのつながりを維持し、命を助ける作用のことを開竅作用というわけです。なお、中国が建国されてから整備された中医学の文献において、生命と神との関わりという中国哲学的な部分は、これまであまりふれられる事がなかったのですが、理由は唯物論を是とする共産党の影響が強く、形而上学的(けいじじょうがくてき)な部分について論じることがはばかられたからです。ただし、生命と神とのつながりという考え方は古代より一貫して中国伝統医学のベースであったことは間違いなく、この部分を無視するわけにはいきません。 |
精と氣と神
さて、開竅薬が緊急時に用いられるのに対して、日常生活の中で神とのつながりをしっかりつけておく為に必要な事は何かというと、精をしっかりと蓄えておくことが重要と考えられています。 |
そのためには、若い時は食べ物から後天の精を取り込む為に脾胃の機能を充実させることですし、「精」の減少過程でもある中年以降を考えた場合は、いかに「精」を補うかが重要課題となります。「精」を補う事と神との関係については、亀鹿二仙膠に関して「名医方論」に人に三奇あり、「精・氣・神」は、生生の元なり。 |
精傷るればもって氣を生じる事なし、精不足はこれを補うに味をもってす。鹿は天地の陽気最全を得て、よく督脈を通じ、精に足るもの、故によく多淫して寿す、亀は天地の陰気最厚を得て、よく任脈を通じ、氣に足るもの、故によく伏息して寿す。 |
二物は気血の属、また造化の玄微を得て、異類友情、竹破竹補の法なり。人参は陽たり、気中の怯を補う。枸杞(クコ)は陰たり、神中の火を清す。この方や、一陰一陽にて偏勝の憂なし、氣に入り血に入り、和平の美あり、これ精生じて氣旺じて神冒(さか)えるにより、庶は亀鹿の年に幾(ちか)きなり、故に二仙というとあり、精の陰陽を補うことで氣が旺盛になり、そのことによって「神」とのつながりがしっかりして長命を得るという事が記されています。 |
開竅薬牛黄の効能
耳鳴りは腎の病でありながら、春に悪化しやすい「春の病」という性格を持っています。ここから「温病」であることが分かります。温病とは、冬の寒さで閉じ込められていた「出すべき熱」が、気温の上昇に伴い、逃げ場を求めて暴れだした状態を言います。耳に逃げれば耳鳴り、鼻や目なら花粉症です。
治って欲しいけれども、それで動けないわけでもないので、仕方なく共存している症状の一つに耳鳴りがあります。多くの方が一度は耳鼻科へ行って見たものの治る兆しもなく、聞こえづらくて鬱陶しいと思いつつ、これといった解決策も見いだせず月日が流れているようです。老化現象ではありますが、身体の冷えで助長されています。 |
生薬(牛黄)
頭、首、肩が冷たい風で冷やされると、皮膚の表面から身体が冷えていきます。すると皮膚が冷えでブロックされて、絶えず皮膚から発散されている余分な熱が発散できなくなり、行き場を失った熱が耳鳴りにつながります。牛黄はその熱の発散を助けます。食材(菜の花)
耳鳴りは、ちょうど菜の花が咲く頃、暦でいえば立春から立夏にかけて悪化しやすいとされています。旬の食材には、その季節の身体に必要なものが豊富に含まれていると薬膳では考えます。菜の花の「辛」という性質には、余分な熱の発散を助ける働きがあります。ツボ(聴会:ちょうえ)
ツボ(聴会:ちょうえ)
探し方:耳の前で、口を開い時にへこむところこのツボに人差し指を置いて耳たぶを挟んで引っ張るように動かして下さい。首筋にコリがあると痛みを感じます。耳鳴り、難聴の方は、耳の周辺がコリだらけです。案外、耳たぶを引っ張りながら「耳たぶマッサージ」をすると気持ちが良い物です。スティック療法は周辺を丸い方で、患部が赤くなるまで何度も擦り(悪いエネルギーを出す)、その後、スティックに氣を送りながら氣を入れます。
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